ホレンコの友 2018年12月号

                    「飼葉桶のにおい」
                          日本キリスト教団札幌北部教会牧師 久世そらち

幼い頃、札幌の月寒のはずれに住んでいました。今はすっかり住宅地になっていますが、その頃はまだ牧草地が広がっていました。牧場に一升瓶をもっていくと、しぼりたての牛乳を売ってくれます。親に手をひかれて牛乳を買いに行き、牛舎をのぞくのが楽しみでした。その牧場はとっくになくなっていますが、今もどこかの牧場を訪れて牧草と糞のにおいがまじった牛舎のにおいをかぐと、あの木造の牛舎のあたたかさばかりでなく、幼い頃のなつかしくも満たされた心持ちまでもくっきりと思い出されます。
クリスマスの情景で、赤ちゃんのイエスさまは、飼葉桶に寝かされます。ルカ福音書2章7節には、幼子イエスを布にくるんで飼葉桶に寝かせたということが記されていますが、その飼葉桶がどこにあったのかは明記されていません。よく「キリストは馬小屋で生まれた」と言われますが、聖書には馬小屋とは書いてありません。当時の生活を考えると、馬よりもむしろ羊や牛のような農家の家畜のための飼葉桶だったと考えられます。
当時、庶民の赤ちゃんは、おむつと肌着と布団を兼ねた一枚の布にくるまれて育てられました。布には赤ちゃんの汗や飲みこぼしたお乳、そしておしっこやうんちのにおいがしみついていたことでしょう。布にくるまれて飼葉桶に寝かされた幼子イエスは、きっとあの牛舎のように、独特のにおいに包まれていたはずです。
ルカ福音書によれば、救い主の誕生を最初に知らされたのは、街の外で仕事をしていた羊飼いたちでした。街場の人たちからは低く見られていた貧しい羊飼いたちは、天使に告げられて飼葉桶の中の幼子を探しあてました。飼葉桶は、羊飼いたちにはなじみの道具です。その中に寝かされている赤ちゃんが、自分たちと同じにおいに包まれていることに、彼らはすぐ気づいたことでしょう。
「布にくるまって、飼葉桶の中に寝ている乳飲み子」(ルカ2:12)こそは、羊飼いたちへの救いのしるしでした。羊飼いたちは、自分たちの仲間として、自分たちと同じにおいのする赤ちゃんを見出したのです。それは、彼らにとって、ほっと心満たす出会いだったのではないでしょうか。
主イエス・キリストは、今もわたしたちの仲間として、同じにおいの中においでくださるでしょう。たとえそれが人からさげすまれ退けられるようなにおいであったとしても。 
        

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