ホレンコの友 2023年9月号

                   「黙想:豊かな実りの季節を前に」

                      日本聖公会 北海道教区司祭 池田亨

 

 教会勤務の関係から、当別・江別方面を自動車で移動する機会がよくあります。7月半ばの景色は小麦畑が収穫を前に色付いて、いわゆる「麦秋」そのものとなります。二十年ほど前、北海道に来たわたしにとって、この季節になると楽しみにしている北海道らしい美しい風景です。
 農家の人に尋ねてみると、小麦には、秋に種を蒔き越冬させ、7月下旬から収穫する「秋蒔き小麦」、そして雪解けと同時に4月に種を蒔き8月中旬過ぎに収穫する「春蒔き小麦」があるそうです。品種によってバリエーションがありますが、前者はケーキ・お菓子に、後者はパンにむくようです。それはともかく圧倒的に北海道は作付け面積と収穫量が多く、全国第一位です。
 確かに、その麦秋の風景は本州と異なり、なぜかヨーロッパみたいです。 
 先日、車を止めて、実った麦畑を観察してみました。穂の高さに視線を合わせたり、低い所から、見上げたり、視線の高低によって、見え方も変化して楽しめます。麦の穂は天に向かってまっすぐ、とても力強く勢いがあります。確か「稲穂」は「みのるほど こうべを垂れる いなほかな」にあるように、成長とその実りにおける謙虚さのシンボルとして表されます。「麦穂」といえば、「みのるほど 天にむかって 主に感謝」と歌っているかのようです。
 もう四十年ほど前、わたしが、東京で神学教育を受けていたとき、講義のなかで、ある教師が農協のロゴマークに言及されたことがありました。 
 先生曰く「麦穂がモチーフであり"協"の"十"は十字架がイメージされ、左下の"力"は一粒の麦が地に落ちる図形にデザインされており、そこには"一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ。"(ヨハネ12:24)に由来する」と。戦後、各地の「農業会」が解体、改組され「農業協同組合」が発足、その理念と発足に関わった賀川豊彦(1888-1960)の影響のもと、今となっては「旧ロゴマーク」ですが、デザイン化されようです。
 実りの季節、想うことがあります。実りにいたるまでの作業、その苦労です。畑の土地の管理、病気に対する対策、水の管理はもとより、機械化された作業、その大型機械の設計から製作を考えるなら、たくさんの人々の協力があります。そして、ことに天候に左右される農業は人の力だけではなく天地を造られた神のご配慮が必要になりましょう。ゆえに、実りへ至る道には多くの祈りがあります。
 詩編のみ言葉が心に浮かび、口ずさむのでした。
「涙と共に種まく人は 喜びの歌と共に刈り入れる。」(詩編126:5)  

 神に感謝

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